2010年6月29日火曜日

【書評】これからの「正義」の話をしよう

ISBN:978-4-15-209131-4


結論:★4つ(満点は★5つ)。

内容としては、かなり難易度が高い。例示されている内容に難しさはないのだが、どうしても、根底にある程度の前提知識(日本で言う、高校レベルの政治経済や倫理の知識)がなければ、逆に苦労するのではないか、という気もする。

そして、哲学の本なので、半分は仕方のないことかもしれないが、この本には結論がない。具体的に「これが正解」というのが存在しない。大学の教科書ということなので、ある意味ではこれで良いのかもしれないが、一般向けに出版されるときは、「では、○○という場合、あなたはどう考えるだろうか?」という問いかけがあった方が、理解がより深まるのではないかという気もした。

サンデル風に言えば、レベルはさておき、人間は日々判断する生き物と言えるのだろう。それが「5人殺すか、1人殺すか」というレベルではないとしても、昼食を何にするのか、車で行くか電車で行くか、傘を持っていくか。そんな判断は、本当に自分の出自を反映しない判断だと言い切れるのだろうか。

自分の帰属するコミュニティ(たとえば家族や宗教、国家、時代背景)の考え方に依拠していないと言い切れるのだろうか。仮に、依拠していることが(当面は)問題ないとして、それが高度に(ある意味で矛盾しているが)政治的に、また倫理的に判断を求められる場合はどうだろうか。自分の場合、おそらくそんな判断を求められることはないと断言してもいいが、誰かの判断を見聞きしたとき、それはどこに立脚しているのか。それを十分に咀嚼しなければ、きっと誤ったメッセージとして、人々は受け入れてしまうのではないか(逆に言えば、十分に咀嚼したメッセージを人々に与えなければ誤解を生んでしまうのではないか)。

サンデルの立場、それはある意味で矛盾を抱えていて、哲学でありながら、それは政治的にも見えるし、宗教的にも見える。おそらく、その事実こそが、「無知のベールをかぶることはできない」ことの証明であり、「人の判断には何らかのコミュニティ意識が反映される」ことの証明なのかもしれない。

双方向の大学講義と違って、こちらは本を読むという一方通行なので、ひょっとすると誤解があるかもしれない。少なくとも、ライブ感はまったくない。テレビの放映を見ていないので、この本のポイントとなるべき部分がどこなのか、バランスを取り切れていない部分もあるかもしれない。だとすると、テレビを見た人にこそ、この本は薦められるのかもしれない。

1点だけ、337ページの引用文4行目に「驚異」とあるのですが、これは「脅威」の誤変換かと思います。

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